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世界チンパンジーの日記念 連続ブログ ~野生のチンパンジーが暮らす森では...編~の写真

更新日:2026.07.28世界チンパンジーの日記念 連続ブログ ~野生のチンパンジーが暮らす森では...編~

更新日:2026.07.28

世界チンパンジーの日記念 連続ブログ ~野生のチンパンジーが暮らす森では...編~

 みなさんこんにちは。

 今から20年近く前の2007年から2009年の2年間、私はチンパンジーが生息する東アフリカのウガンダ共和国にあるカリンズ森林保護区で暮らしていました。よこはま動物園の飼育員を休職し、青年海外協力隊(現 海外協力隊)の環境教育隊員としての赴任でした。

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高台から見下ろしたカリンズ森林

 

 私が赴任したカリンズ森林保護区は、森林を管理する団体が森林をゾーンニングして管理しており、森を保護するだけでなく、木材会社に伐採権(木を切る権利)を販売して森林を活用する生産活動も行われていました。伐採権を購入した木材会社には、決まった樹種や一定以上の大きさの樹木を切るというルールがありましたが、大きな木を切るためには周りの小さな木も切る必要があり、森の木がどんどん減っていく状況でした。

 一方で、カリンズ森林保護区には、チンパンジーを含む6種の昼行性霊長類をはじめ、多くの野生動物が生息していました。チンパンジーなどをテーマにして研究者による研究活動も行われていました。生産活動による森林の減少が著しいため、研究者は「このままではいずれ森がなくなり、チンパンジーをはじめとした野生動物もいなくなってしまう」と危機感を覚え、森林を管理する団体へ森の一部のエリアを伐採からエコツーリズムへ転換する提案をしました。管理団体から「伐採と同等の収入が得られるのであれば」との条件付きで、カリンズ森林保護区でのエコツーリズム導入が試みられていたところでした。

②カリンズ森林エコツーリズムサイト入口の看板(当時).jpg

カリンズ森林エコツーリズムサイト入口の看板(当時)

 

 私が赴任した当初は、エコツーリズムを開始する前で、野生のチンパンジーに人に観察されることに慣れてもらう段階でした。私は、ほぼ毎日、トラッカー(森や野生動物に詳しい現地スタッフ)と一緒に森を歩いてチンパンジーを探し、見つけたら夕方まで一定の距離を保ちつつ、つかず離れず追跡しながら観察をしていました。

 協力隊員としての2年間の活動が終わる頃、エコツーリズムの試行を経て、実際にお客様をお迎えするツーリズムが始まりました。しかし、まだ駆け出しのエコツーリズムサイトであるカリンズ森林を知る人が少ないうえ、ウガンダ国内にあるチンパンジーが観察できることで有名な国立公園などに比べると、チンパンジーを見られる確率が低かったため、エコツーリズムサイトとして軌道に乗る前に、私は帰国しました。

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チンパンジーを撮影するお客様

 

④朝から昼まで森を歩いても、チンパンジーに出会えないことも.jpg

朝から昼まで森を歩いても、チンパンジーに出会えないことも

 話は変わって、私がカリンズ森林でエコツーリズムに向けて観察していたグループは、カリンズ森林内に6グループ程いると言われていたチンパンジーグループのうち、舗装道路に面したエコツーリズム拠点の近くを生活圏としていたグループでした。そのグループの中に、ビクターと名付けて個体識別されたワカモノオスがいました。若いため、オトナオスの仲間にはまだ入れず、群れから離れて単独でいることも多い個体でした。ワカモノオスはこのグループにビクターしかいなかったため、顔が見えなくても背格好からすぐに見分けられました。ビクターについて特に印象に残っているエピソードがあります。それは、1週間に2度、狩りに成功したのを観察したことです。1度目はリス、2度目はアビシニアコロブスの子どもを食べている姿を観察しました。チンパンジーの社会では、獲物を捕まえた個体に権利があり、一人で食べたり、仲間に分け与えたりします。みんな肉が大好きなので、誰かが獲物を捕まえたことを知ると、集まってきて覗き込み、分け前をもらおうとねだります。しかし、まだ若いビクターは、他の個体が獲物を捕まえた際に分け前をもらえることはほとんどありませんでした。そんなビクターが週に2度も獲物を捕まえたことに、驚き、私は勝手にビクターの成長を感じていたのを覚えています。

⑤ワカモノオスのビクター.jpg

ワカモノオスのビクター

 

⑥ビクターが採食後に捨てたリスの皮.jpg

ビクターが採食後に捨てたリスの皮

 

 さて、今年2月、再びカリンズ森林へ行ってきました。もう行くことはないだろうなと思っていましたが、動物園の後輩からの「連れて行ってほしい」という言葉にのせられて、約15年ぶりの訪問でした。チンパンジーを観察するツアーの集合時間である朝7時過ぎにカリンズ森林に到着すると、私たち以外にもお客さんがいました。最近のカリンズ森林は、チンパンジーを見に来る方に人気があり、1日の予約数が埋まってしまうこともあるそうです。時間をずらして、午前と午後に別の観光客を案内することもあるのだとか。そして、観光客が森でチンパンジーを観察できる確率は、なんと95%以上!びっくりです。

私たちも注意事項などを聞いた後、ガイドと一緒に先行しているトラッカーのもとへ向かいました。

⑦【ぼかし】エコツーリズムサイトに集合した観光客.jpg

エコツーリズムサイトに集合した観光客

 

⑧【ぼかし】舗装道路の横に広がる森.jpg

舗装道路の横に広がる森

 森に入って10分ほど歩いたところで、樹上にいるチンパンジーに遭遇しました。チンパンジーを観察できる時間は、そこから1時間というのがルールです。

⑨樹上のチンパンジー.jpg

樹上のチンパンジー

 

⑩高い木の上にいました.jpg

高い木の上にいました

 グルーミングするオトナたちや、まだ小さい赤ん坊が母親と一緒に遊ぶ姿、細い枝をつたって木から木へ渡っていく様子、するすると木から下りてくる様子、たまに聞こえる鳴き声など、野生のチンパンジーが暮らす空間を堪能できました。双眼鏡を使ってチンパンジーの表情を観察したり、写真や動画を撮影したりする際に、高さ30m程度のところにいる樹上のチンパンジーを見上げていると首が疲れることもありましたが、あっという間の1時間でした。

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グルーミング中

 

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鳴き声でコミュニケーション

 

⑬こちらを見ています.jpg

こちらを見ています

 

⑭あくびの際に歯が見えました.jpg

あくびの際に歯が見えました

 嬉しい再会もありました。

一緒に森を歩いていたガイドが樹上にいたチンパンジーについて「彼はビクター。このグループのアルファオス(リーダーのようなもの)だ。」と教えてくれました。そうです。あのビクターです。私がここで暮らしていた時にはまだまだ若造だったビクターが、グループのアルファになっていました。

⑮グルーミングを受けるビクター.jpg

グルーミングを受けるビクター

 15年ぶりに訪れたカリンズ森林では、新しくなったエコツーリズムサイトの看板や、立派な門のほかに、大きく変わっていることがありました。それは、以前行われていた伐採による生産活動がなくなったことです。ツーリズムによる収入が増えたことで、2017年に森林を管理する団体の活用方針が変わり、伐採からエコツーリズムへ全面的に転換されたためです。木を切って森を活用するのではなく、森を残すことに価値があると判断された訳です。一方で、観光客にとって人気となったカリンズ森林は、オーバーツーリズムの問題が発生していました。キャパシティを超えて多くの観光客がやってくるため、ツーリズムの対象となっているチンパンジーグループへの負荷が懸念されていました。そのため、現在は別のグループをツーリズムに利用できるよう、調査や準備が進められていました。これまでは広いカリンズ森林に隣接するたくさんの集落のうち、エコツーリズムサイトに近い集落しか恩恵を受けられていませんでした。ツーリズムの対象となるチンパンジーグループが増えることで、別の集落にもツーリズムからの還元が期待できます。森があり、チンパンジーをはじめとする野生動物がいることで、ツーリズムが成り立ち、それによって森に関わる多くの人に利益が還元されることで、森を守ろうと思う人が増える。そんな循環が生まれていました。

 野生動物を対象にしたツーリズムには、人と野生動物との距離が近くなることで生まれる様々な問題があることも事実です。環境への影響や共通する感染症、オーバーツーリズムなど十分に注意すべきことはたくさんあり、収支だけで成功・失敗が決まるものでもありませんが、今後も注目していきたいです。

⑯新しくなっていた看板.jpg

新しくなっていた看板

 

⑰以前、森で伐採した木材を運搬するための大きなトラックが通る道があった場所は、木で覆われていました.jpg

 以前、森で伐採した木材を運搬するため大きなトラックが通る道があった場所は、木で覆われていました

 私がカリンズ森林で暮らしていた当時、チンパンジーの研究者から「一か所の連続した生息域に330頭のチンパンジーが生息していれば、遺伝的な多様性を保ちつつ種を維持していける。カリンズ森林には350頭程生息しているので、今保全すれば、将来にわたってチンパンジーが生息できる可能性がある」と聞いたことがありました。チンパンジーが暮らすカリンズ森林で、人とチンパンジーが折り合いをつけながら暮らしていける未来を期待しています。

 

かわぐち