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ツシマヤマネコ 赤ちゃん成長記⑤ ~人工授精編②~の写真

更新日:2021.04.27ツシマヤマネコ 赤ちゃん成長記⑤ ~人工授精編②~

更新日:2021.04.27

ツシマヤマネコ 赤ちゃん成長記⑤ ~人工授精編②~

 今回は202111日に実施した人工授精直前までのお話です。 (前回のブログはこちら

 

 人工授精というと実際に精子を注入しているところをイメージするかと思いますが、実際にはツシマヤマネコの人工授精の成否を決める重要な要素は、人工授精当日の前からの調整にあります。

まず、メスの卵巣の状態を人工授精当日までに妊娠するために最も適した状態にすることです。

ネコ科動物の繁殖生理は複雑で季節繁殖であったり、周年繁殖であったり、交尾排卵だったり、自然排卵だったりと種によって異なります。ツシマヤマネコは季節繁殖で自然排卵も交尾排卵もする動物です。よってツシマヤマネコに合わせた独自の調整法が必要となります。具体的には妊娠する確率を上げるために、卵巣の活動が活発になる2月~4月を避けつつも、この期間に近い日を人工授精実施日に設定し、ホルモン剤を2種類使用して卵胞を発育させて排卵を誘導します。排卵を誘導するホルモン剤の投与量も体重換算ではなく、それぞれの種によって卵巣の感受性が異なるため、ツシマヤマネコにあった投与量が必要となります。また、2種のホルモン剤の投与する間隔、ホルモン剤の最終投与から排卵予定までの時間など考えることはたくさんあります。これらの調整をかなり正確に行うことが要求されるため、人工授精にたどり着くまでに多くの知識と経験が必要となるのです。

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 さて、今度はオスからの採精の話になります。

 採精は人工授精の直前に実施します。この採精もネコ科動物では、採取できる精子数がとても少なく、質も悪いことが多いため大変です。例えば、前回のブログで例に挙げたジャイアントパンダやイルカは精子数が数十億の単位で採精できますが、ネコ科動物は数千万の単位でしか採精できないことが多く、さらにツシマヤマネコでは500万前後しか採精できないのです。精子数は人工授精の成功率を上げるための重要な要素です。この点だけを見てもツシマヤマネコは人工授精がかなり難しい動物だと言えます。

今回は2頭のオスから採精を実施しました。採取できた精子数は合わせて800万程度で、活性はあまり良くありませんでした。精子が弱ってしまうとすべて台無しになってしまうため、精子は卵管注入に適した特殊な培養液で慎重に処理した後、人工授精まで暗い場所で保存します。

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 メスの排卵の誘導の正確な調整とオスからの良質な精子の採取と適切な処理。ここまでがうまくいくかどうかで、人工授精の成否がほとんど決まると言っても過言ではありません。あとは適切なタイミングでメスの生殖器に精子を注入するだけです。

 

次回につづきます。

 

医療係 東野