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第10回 ウマの小話「モウコノウマは野生馬じゃなかった?」(最終回)の写真

更新日:2026.03.29第10回 ウマの小話「モウコノウマは野生馬じゃなかった?」(最終回)

更新日:2026.03.29

第10回 ウマの小話「モウコノウマは野生馬じゃなかった?」(最終回)

前回のブログ:第9回 ウマの小話「モウコノウマと血統登録」

    

2018年2月に、モウコノウマについての驚くべきニュースが報道されました。

実はモウコノウマは真の野生馬ではなく、一度家畜化された馬が逃げ出し野生化したものというのです。

アメリカの著名な科学雑誌『Science』に掲載された論文では、次のことが書かれています。

Ancient genomes revisit the ancestry of domestic and Przewalski's horses

(古代ゲノムが家畜馬とモウコノウマの祖先を再検証する)

   

この2018年の研究では、古代DNAの解析において、カザフスタン北部の「ボタイ文化」の遺跡で発掘されたウマの骨のゲノム(その生物がもつ全遺伝情報)を解析したところ、モウコノウマと遺伝的に非常に近縁である一方、現代の家畜ウマとは関係がないということが判明したというのです。

   

また、2009年には、この「ボタイ文化」の遺跡から、これまで場所が不明とされてきた、ウマが家畜化された証拠と考えられる以下の3点が発見されたという研究がありました。

 ・見つかった土器から馬の乳特有の成分が検出された。

 ・見つかった馬の頭骨に、銜(ハミ)を使用した可能性がある摩耗の跡があった。

 ・馬を飼育していたと考えられる囲いの跡が見つかった。

 

以上のことから、モウコノウマはボタイ文化の中で一度家畜化され、その後野生に逃げ出したものではないか、つまりモウコノウマは真の野生馬とは言えないのではないか、とされたのです。

ちなみに、第7回ウマの小話でお話ししたとおり、その後の研究で、現代の家畜ウマが家畜化された場所は、ロシア南部のドン川とヴォルガ川の下流域で約4,2004,700年前(紀元前2,7002,200年頃)とされています。

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ところが、その後2021年に2018年の論文の反証となる論文が、イギリスの有名な科学雑誌『Nature』『Scientific Reports』という雑誌に掲載されました。(こちらは、あまり大きくは報道はされませんでしたが)

    

 反証となる研究は、そもそもボタイの遺跡で発見された馬は家畜と呼べるものだったのか?という説を唱えています。

ボタイの遺跡では前述の3つを家畜化の証拠として挙げていますが、

・土器の馬の乳特有の成分→野生ウマを捕獲して、乳を搾っただけでは?

・銜(ハミ)を使用したであろう、摩耗の跡→歯の摩耗は銜だけではなく、加齢の可能性もあるのでは?

・馬を飼育していたと考えられる囲いの跡→捕獲した野生ウマを一時的に飼育していただけなのでは?

という説です。

   

第7回ウマの小話でご紹介しましたが、家畜とはヒトが体格や性格などを選抜する過程を経るものであり、ボタイの遺跡で見つかったのは「単に肉や乳などを利用するために野生から捕獲しただけでは?」ということ。つまり、乳を搾ったり、肉を食べたりするために多くの野生のモウコノウマが捕獲され、囲われていただけかもしれないから、家畜だったかどうか、はっきり言えないのではないか、ということで、モウコノウマが真の野生馬かどうかという議論は振り出しに戻ってしまいました。

今も研究者の間で議論は進んでいます。今後も新たな研究が発表されると思いますので、モウコノウマ担当としては、続報を待ちたいと思います。

 

元日から続いてきました『ウマの小話』も今回でおしまいです。

ウマの仲間、体の仕組み、進化、家畜化、保全の話と色々な話をしてきましたが、いかがだったでしょうか?

 

モウコノウマは「ウマの仲間」なので、園路に出ると小さいお子さんに親御さんが「お馬さんだよ」とか「ぱっかぱっかだよ」と話しかけている場面を多く見かけます。絵本などでしか見たことがない本物のウマをお子さんが初めて認識する場面に遭遇するのは担当者として嬉しい瞬間です。一方で「なんだ、ウマか」と言われてしまうこともあります。モウコノウマを担当する中で、ガイド(飼育員のとっておきタイム)を通じて、色々なお話をさせていただいていますが、時間の制限もあり、限られた内容しかご紹介できないことを残念に思っていました。今回午年ということで、『ウマの小話』を通じて、少しでも馬について興味を持っていただき、来園されたときに第一印象だけではない新たな視点でじっくりウマを観察し、文化や歴史を通して私たち人間と深い関係にあるウマの未来について考えていただけると、飼育担当として嬉しく思います。

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