更新日:2026.03.13第9回 ウマの小話「モウコノウマと血統登録」
第9回 ウマの小話「モウコノウマと血統登録」
前回のブログ:第8回 ウマの小話「ウマの家畜化②」
当園で飼育しているモウコノウマの「フルール」(メス 17歳)には、当園の識別番号であるNo.1と、もう一つ国際血統登録番号としてNo.5352という番号がついています。
今回は、モウコノウマの国際血統登録と生息域外保全についてご紹介していきます。
モウコノウマの国際血統登録は、ヨーロッパバイソン、シフゾウに次いで古く、1959年にチェコのプラハ動物園で開始されました。血統登録とは、いわば飼育動物の「戸籍」になります。日本国内でも、東京都多摩動物公園がモウコノウマの国内血統登録を担当し、日本国内の飼育状況を取りまとめてプラハ動物園へ報告しています。
モウコノウマの国際血統登録では、飼育されている個体だけではなく、野生復帰した個体、そして、その後野生で繁殖した個体も全て個体識別され、登録されています。このような動物種は多くはありませんが、ヨーロッパバイソン、カリフォルニアコンドル、クロアシイタチなど。そして日本でも、トキやニホンコウノトリが飼育下、野生、全ての個体が血統登録されています。

(当園で飼育するフルール 国際血統登録番号No.5352)
<モウコノウマの域外保全>
飼育下個体群の遺伝的な多様性を保つためには、個体群形成のもととなった野生由来の血統である「ファウンダー(創設個体)」の数が多いほど有利ですが、多くの希少種では野生の個体数が激減してから保護活動が始まるため、ファウンダーの数が限られる傾向にあります。モウコノウマも例外ではなく、繁殖計画の開始時点で、ファウンダーはわずか13頭にまで絞られていました。また、そのうちの少なくとも1頭(近年のより詳しい遺伝子解析では2頭以上)は、家畜ウマと交雑した個体であったことが分かっています。(当園のフルールは、ファウンダー全てと血縁関係があります)
モウコノウマは、飼育が始まった20世紀前半は、飼育も繁殖も順調に進んだわけではありませんでした。技術的な問題から飼育園間での繁殖が滞ってしまったり、動物園での群れの構成に起因する様々な問題により、一時遺伝的危機に直面しました。しかし、1970年代に入り、1947年に捕獲された「野生最後の個体」であるメスを繁殖群に導入できたことや、輸送技術の向上による園間同士で積極的なペアの組み換えが行われた結果、順調に個体数を増やしていきました。そして、1992年6月のモンゴルのホスタイ国立公園での野生復帰を皮切りに、現在でも中国、ロシア、ウクライナ、カザフスタン(昨年から始まった)、スペインなどで野生へと戻す活動が続けられています。

(左から、カルミア、ジャスミン、フルール
ジャスミンとカルミアは父親が同じで母親が違う姉妹。フルールとカルミアは、叔母と姪の関係)
最近のモウコノウマの保全にまつわるトピックスとして、2020年にアメリカでモウコノウマのクローン馬(オス)が誕生しています。この個体の元になった個体は、現在では失われてしまった貴重な野生由来の遺伝子を持つ個体で、1980年代に体細胞が米国カリフォルニア州にあるサンディエゴ動物園内にある専門施設で凍結保存されていました(このような施設は冷凍動物園とも呼ばれ、ここの施設を参考にズーラシア園内の繁殖センターでも配偶子や細胞の凍結保存を行っています)。さらに、この同じ細胞をもとに2023年に2頭目となるクローン馬(オス)も誕生しており、今後の繁殖が期待されています。
次回で最後となります。
第10回ウマの小話「モウコノウマは野生馬じゃなかった?」です。
<モウコノウマ担当>