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牧野博士と野菊の写真

更新日:2023.11.16牧野博士と野菊

更新日:2023.11.16

牧野博士と野菊

今年も菊花展開催中です。横浜菊花会ならびに小菊盆栽芸術協会長生会の皆様、展示協力誠にありがとうございました。今年の夏のただならぬ猛暑で、菊の生育もおもわしくなかったそうですが、展示ができて本当に嬉しく思っております。

最も格調高い花である菊。古代の中国では、菊の葉から落ちたしずくを飲むと永遠の命を得られると信じられていました。

ところで今年の大菊のなかに、貴重な品種があります。葛飾北斎も描いたその菊の名は「巴錦(ともえにしき)」。↓

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こちらはなんと、江戸時代1800年代から存在しているといわれている品種です。はやりすたりの多い菊の世界ですが、こんなに長生きなのは驚くべきことです。この高級感ただよう花色。加賀の殿様がたいへん気に入ったという話が語り伝えられておりますが、納得ですね。ただ、やはり長い時間生きてきたためウィルスが入り弱体化していたそうで、近年ウィルスを取り除いて復活を遂げました。

今回は、今話題の牧野富太郎にちなんだ野生の菊を展示しました!まずは、発見命名の「ノジギク」。牧野博士の写真とタイアップで。牧野博士は喜んでくれているでしょうか?↓

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牧野博士は、このノジギクを「イエギク」...標準和名的には「キク」(栽培される園芸ギク)の原種と考えたそうです。西日本でしか見られない日本の固有種。展示しているこちらの個体は、高知県産の混じりけのないれっきとしたノジギクです。野路菊と書きますが、じつは海岸沿いの岩場に生えています。花、咲き始めから舌状弁真っ白ですね。これは、ノジギク(同じグループのオオシマノジギクやサツマノギクも)の特徴のひとつです。(ただし例外もあります。)終盤には紅が乗ります。しかしこのことに関して記述している書物はありません。ここだけの話です、あしからず。そして今回、牧野博士のノジギクの植物画も高知県立牧野植物園に許可を頂き一緒に展示していますので、生きたノジギクと描かれたノジギクを見比べるのも面白いとおもいます。牧野博士の画の上手さはただ者ではありません。

さて、学名のなかに牧野博士の名前の入っているキクもあります。関東でも山に行くと観察できる「リュウノウギク(竜脳菊)」です。学名は「Chrysanthemum makinoi」。↓

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ずばり牧野さんのといった名前のキクになります。こちらも、日本固有種です。ノジギクと違い咲き始めの舌状弁には紅が乗ります。開けば白くはなりますが、ノジギクの白さとは全く違います。是非、展示品で見比べてくださいね。今年は例年より開花が少し遅く、展示中に見頃を迎えてくれました。感謝。なお、同じ起源を持つとされる渓流型のキクであります「ナカガワノギク」も展示しています。こちらは、牧野博士の命名種です。↓

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この「ナカガワノギク」も咲き始めは舌状弁に紅が乗ります。四国・徳島県の荒くれ川である那賀川の中流域のみに極限して生える種類です。

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では、キクとはいったい何者なのか?私たちが菊として栽培するキクは、もとは中国から渡ってきた植物で、中国原産の「ハイシマカンギク」がそのルーツのひとつと考えられています。

それがこちら↓

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這っています。残念ながら現時点で咲き始めで花弁が開ききっていません。↓

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「ハイシマカンギク」は這島寒菊と書き、茎が地を這うように伸びるためその名があります。分類上「シマカンギク」の変種とされています。基準種の「シマカンギク」も場所によってまたは個体によって茎は結構垂れるので微妙なところですが。「シマカンギク」は島寒菊と書き、西日本に広く分布する種ですが、どちらかというと山地の崖などに生えているので、牧野博士はこの名前に異議を唱え、別名でもある「アブラギク(油菊)」を標準和名にするべきと主張されていたそうです。牧野博士と菊の関わり、いろいろあるんですね!!

園芸化にたずさわったキクといえばもう一種。↓

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東日本の太平洋沿岸が原産のハマギクです。こちらは、道端に野生化している場所もある「シャスターデージー」の片親になります。葉っぱがなんとなく似ていますよね。ちなみにもうひとつの親は「フランスギク」です。ハマギクも日本固有種で、学名は「Nipponanthemum nipponicum」。日本の名がダブルでつけられているのです。まさに日本を代表する植物といえるのではないでしょうか(私見)。そう、鳥のトキもそうですよね、「Nipponia nippon」でも悲しいことにトキは日本では絶滅してしまいました。ハマギクにはそうなってほしくないものです。ところでハマギクはかつてキク属「Chrysanthemum」に分類されていました。でもある違いがあります。それは木であるということ。↓

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盆栽菊の木化した地上部は、自然のサイクルの場合花が終われば枯れます。ですから草(草本)です。ハマギクの場合この木化した部分がずっと生きていくので、木(木本)という訳です。草と木の違いにご興味のある方はぜひ調べてみて下さいね。

とまあ、以上園芸種から原種までと内容の濃い菊花展のリポートでした。展示は19日(日)までです。(野生菊は開花終了まで展示する予定です。)