更新日:2026.03.29伊藤博文と金沢別邸 豆知識シリーズNo.6 ~茅葺屋根の差し茅と丸葺~
伊藤博文と金沢別邸 豆知識シリーズNo.6 ~茅葺屋根の差し茅と丸葺~
旧伊藤博文金沢別邸では、令和7年11月からの茅葺屋根修繕工事において、「差し茅(さしがや)」技法による屋根の修繕が行われました。
「差し茅」とは、屋根全体を新しく葺き替えるのではなく、傷みの出た部分に新しい茅を差し込み、屋根の機能と姿を保つ伝統的な修繕方法です。
茅葺屋根の修理には、屋根全体を一度に葺き替える「丸葺(まるぶき)」という方法もあります。「丸葺」は、厚く均一に茅を重ねることで耐久性と美観を一新できる反面、既存の茅をすべて取り除くため、建物が積み重ねてきた時間の痕跡が失われてしまいます。そのため、文化財指定建造物では、内部まで大きな傷みが及んでいない限り、丸葺は「最後の手段」と位置づけられています。
文化財修理では、「できるだけ壊さず、元の姿を尊重する」ことが重要な原則です。
差し茅は、既存の茅や下地を活かしながら、必要最小限の介入で屋根を守る方法であり、こうした文化財修理の考え方に最も適した技術といえます。屋根内部には、建てられた当時や過去の修理による茅が層となって残されており、それ自体がこの別邸の歴史を物語っています。
また、差し茅は単なる補修ではなく、屋根を「使いながら育てていく」ための手入れでもあります。風雨や日射の影響を受けやすい軒先や棟を中心に、状態を見極めながら茅を補っていくことで、屋根全体の寿命を大きく延ばすことができます。こうした日常的ともいえる手入れの積み重ねがあるからこそ、丸葺による大規模な修繕の時期を先送りすることが可能になります。
旧伊藤博文金沢別邸の茅葺屋根は、差し茅による修繕によって、外観の美しさだけでなく、建物が歩んできた時間の厚みも保ち続けています。丸葺によって姿を一新するのではなく、差し茅を重ねることで復元当時の姿を受け継いでいます。
↓ 茅の高さや角度を整える技術
↓ 風雨により傷んだ茅葺の表面を削り、新たに茅を差していきます。

旧伊藤博文金沢別邸(横浜市指定有形文化財)